夢の技術! 量子コンピュータは実現するか?

IBMやカナダのIT企業 D-Waveなど、世界中の企業が実現に向けて研究を行っている夢の技術、「量子コンピュータ」

今年10月には、Googleが開発中の量子コンピュータを使用して、最先端のスーパーコンピュータが解くのに約1万年かかる計算をわずか3分余りで解いたとのニュースが話題になりました。

量子コンピュータは、現在存在する古典的コンピュータとは計算方法が異なり、”量子現象”を利用して計算を行います。

ひと昔前は、実現までにはまだ数十年かかると言われていましたが、近年多くの企業からすばらしい研究成果が報告されてきています。

この記事では、「夢の技術」と言われた量子コンピュータとは何か?その実現性どのようなことができるのかについてお伝えします。

なお、既存のコンピュータの仕組みで高速計算を実現する「スーパーコンピュータ」については以下の記事をご覧ください。

コンピュータが計算する仕組みは?

量子コンピュータの動作原理を説明する前に、まずは現在広く使用されている”古典的コンピュータ”の仕組みについて説明します。

現代には、パソコンや家電に組込まれているコンピュータ、スーパーコンピュータなどありとあらゆる種類のコンピュータが存在しています。

そのほぼ全てのコンピュータは、計算を「0」か「1」かの二進数で行っています。

※この「0」か「1」かの最小単位を”ビット”と呼びます。

二進数だと、例えば数字の「0」と「1」は二進数でも同じですが、「2」を「10」と表します。

「3」は「11」、「4」は「100」と、桁がどんどん増えていきますが、これは「0」と「1」で表すことができるパターンが少ないためで、桁数を増やしていかないと大きな数を表現できないからです。

例:1 + 2 = 3という計算を二進数で行うと、1 + 10 = 「11」となる。

ではなぜコンピュータは二進数を使用しているのかというと、「0」と「1」を論理回路上のスイッチのON/OFFで表すことができるから。

初期のコンピュータは真空管という大掛かりな装置でこのスイッチのON/OFFを行っていましたが、現在は IC(集積回路) に納められたトランジスタにより行われています。

量子コンピュータはどのように計算する?

古典的コンピュータは最小単位を”ビット”として、二進数で計算すると解説しました。

では量子コンピュータはどのように計算するのでしょうか?

”量子ビット”によって多数の計算を同時に行う。

量子ビットとは、量子コンピュータが扱う最小単位です。

この量子ビットは、「0」か「1」の二種類だけでなく、「0」でもあり「1」でもある、つまり2つ以上が重なった状態をとることができます。

そしてこの量子ビットはあらゆる状態が同時に存在しており(多世界解釈)誰かが観測したときに量子ビットの状態が確定します。

なんだか難しい話ですが、量子力学の世界では観測の有無によって量子のふるまいが変わるという不思議な現象が起きるのです。

”二重スリット実験”が特に有名。

この現象を利用すれば、古典的コンピュータでは「0」か「1」かどちらかしか扱えなかったものを、同時に扱うことができるようになります。

つまり、あらゆる組み合わせの計算を並行して同時に行うことができるようになるのです。

この量子現象を利用した計算が量子コンピュータの大きな特徴になります。

実現するとできるようになること

量子コンピュータの量子ビットを使用した計算が非常に速いことはわかりましたが、量子コンピュータが完成すると何ができるようになるのでしょうか。

量子コンピュータの強みは組合わせの数が膨大な計算を解くことです。

暗号解読

私たちの身近なところで使われている暗号と言えば、インターネットセキュリティでしょう。

ネット上の情報を他者に見られないようにするために、膨大な組合わせの数(パターン)からなる暗号を使用してセキュリティが守られています。

このような暗号は、最新のスーパーコンピュータでさえ総当たりで組合わせを計算するには何百万年もかかってしまいますが、量子コンピュータを使用すればわずか数秒で解けるようになると言われています。

量子コンピュータの実現は、現在のインターネットセキュリティが崩壊する可能性も秘めています。

AIの能力が飛躍的に高まる

AIには、常に最先端のスーパーコンピュータが持つ計算能力が要求されます。

高速な計算能力により、膨大な選択肢の中から最適解を導き出すことができるようになるからです。

もし量子コンピュータが実用化されれば、新薬を開発するAIを作り、無限ともいえるような組合わせを持つ物質の中から、私たち人間にとって有用な物質を瞬時に見つけ出したり、

現在の気象情報を元にして、あらゆる組み合わせの中から最も可能性の高い気象予報をピンポイントで予測できるようにもなるでしょう。

また、エキスパートシステムのようにある能力に特化したAIではなく、私たち人間のように様々な事象に対応できる”汎用AI”の実現にも、その計算能力が役立つはずです。

本当に実現するのか?

圧倒的な計算能力を誇る量子コンピュータですが、量子現象を制御するのは現代の技術をもってしても至難の業です。

そのため、様々な企業や研究機関が競い合うように日夜開発を続けていますが、商用に使用できるような完全な量子コンピュータは実用化に至っていません。

量子コンピュータは扱いが難しい

現在の量子コンピュータの主流となっているのは”量子ゲート式””量子アニーリング式”という2つの方式ですが、どちらも稼働時には演算素子を極低温まで冷却する必要があり、非常に扱いが難しいコンピュータであると言えます。

それでも実現は近い

冒頭でも紹介したように、ひと昔前は量子コンピュータの実用化にはまだ数十年はかかると言われていました。

しかし、研究者たちの努力によって、ここ数年でGoogleのように多くの成果が報告されるようになってきているのも事実です。

商用にも使える実用的な量子コンピュータも、2020年代には実現するのではないかと私は考えています。

ただし、実現したからと言って全てのコンピュータが置き換わることはなく、例えばPCやスマートフォンなどそれほど計算能力を必要としないものについては、現在と同じように古典的コンピュータが使用されるでしょう。

まとめ

  • 古典的コンピュータの計算方法

現在のコンピュータは「0」か「1」の2進数で表現する最小単位”ビット”を使用して計算する。

  • 量子コンピュータの計算方法

量子コンピュータは「0」と「1」以外に複数の状態を表現できる最小単位”量子ビット”を使用して計算する。

量子ビットは複数の状態が同時に存在しており、並列して計算できるため超高速である。

  • 量子コンピュータができること

AIの計算能力を飛躍的に高めることができる一方で、暗号解読に使われれば現在のインターネットセキュリティが崩壊する可能性がある。

  • 実現性

量子現象を制御することは非常に難しく、量子コンピュータというハードウェアの扱い自体も難しいが、近年多くの研究成果が報告されており、2020年代には商用にも使用できる量子コンピュータが登場しそう。

「夢の技術」と言われた量子コンピュータですが、実現しても、ぜひ人類の発展のために使ってほしいですね!